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・いえ、本州の話なのでハブもマングースも出ません
・♀ばっか書いてるのでまじめに書こうと思って失敗した。残念すぎる




 


 本降りになったのだろう。眠りに着く前まで鼻についていた金木犀の香りが消えていた。冷たい空気が頬に当たる。下に敷くものが何もなかった腰のあたりがずきずきと痛む。岩肌に身を投げ出してからどれほど経ったのか三成には知れなかった。
 瞬きを二、三度する。起きてから全く声は漏らしてないというのに、

「眠れたか?」

 脳天の先あたりから家康が訪ねてきた。
 降りしきる雨を眺めていたのだろう、三成の反転した世界でも座る姿勢で分かる。顔だけこちらを見下ろしてきた。かつてこの山の主の巣であった大穴の入口に座り、寝ずの番を務めていたのだ。
 三成の怪我は大したものではない。しかし、降り出した雨は戦装束の隙間に入り込んでくるため雪よりも厄介になる。先を急ぐ三成を説き伏せて家康が仮眠をとらせたのはそう遠くない昔の話だった。

「通り雨だろうが、まだ動けそうにないな・・・」
「問題ない、いくぞ」

 なんて身を起こそうとすれば、家康が「馬鹿、そんな身体でどうするんだ」と三成の額を地面に押し込めた。あまり大げさな比喩ではない。
 大きな手の隙間からぐわと三成は牙をむきかけたが、酷く陰のできた家康の顔を見て怒りを引っ込めた。

「・・・。・・・貴様は」
「え?」
「寝たのか?」

 結構三成にすれば普通に聞いたはずなのに、それは世間一般からすれば脅されているような錯覚を覚える。あながち家康も例外じゃなく、

「あ、ああ」

 なんてばればれな調子で答えてしまうからますますいけなかった。
 ぎろ、と三成の眼光が増す。変な嘘をつくもんじゃないな、と家康は口の奥で呟いてから、

「眠れなかったんだ」

 正直に告白した。まだ三成の死線がからみついて離れそうにないので「本当なんだ、信じてくれ」と降参してみる。
 それでも一度傷ついた三成の信頼はなかなか回復しない。
 一気に気まずくなった空気を壊そうと家康はおずおず尋ねた。

「・・・。・・・笑わないか?」
「言え」
「何かいる」
「何がだ」
「分からん。でも、何かがここにいる気がする」
 
 不安げな声だ。ちんちくりんのころならいざ知らず、この図体で抜かされて真面目に取りあうことなどできない。ただ、三成の中で竹千代と呼ばれていた子供の面影がよぎったのも嘘ではなく、結局全ては無反応のままに消えてしまった。

「・・・。・・・」

 その能面の表情を、呆れられたと家康はとった。軽く自分に失笑する。

「霊感とか、ワシないはずなん・・・」

 なんて、取り繕うような笑みを浮かべかけた家康の顔がひきつった。

「動くな、三成」

 えらく真剣な調子で家康が言う。険しい表情のまま、腰を浮かせた。
 臨戦態勢をとる、獣のように。

「家康?」
「蛇だ・・・でかいぞ」

 言われて首を動かそうとしたが、制止の声に阻まれた。視界が暗くなったと思ったら家康だ。ちらとのぞく顔はかなりおっかないものになっている。
 耳を澄ませば確かに蛇の脱皮した皮がこすれる音がする。岩肌を滑る音は、鳥肌が立つほどに近くから聞こえた。
 家康の視線は大蛇に注がれたままだ。その角度から、三成は蛇が己の足もとにいることを瞬時に悟った。

「絶対、動くなよ」

 マムシだ。猛毒だぞ、なんて脅してから家康は獲物に狙いを定める。鍛えられた四肢は、ばちんと小気味見いい音を立ててその身体を大蛇のもとへ一飛びに運んでくれそうだ。静かに殺気立つ雰囲気に当てられたのか、蛇の動く音も止んだ。
 言うまでもないが、家康の真下で身動きとれない三成はたまったもんじゃない。

「いえやっ・・・」
「しーっ!」

 なんて、家康としては三成に向かって言ってるつもりなんだろうが、首を動かせない三成の視界に飛び込んでくるものと言えば8割8分家康の胴の部分である。
 三成は獣が上に乗っているような倒錯感を覚えた。

「・・・。・・・」

 じりじりと家康がマムシとの距離を詰める。ももの付け根あたりの地面に前足を置き、がら空きになっている脇の隙間に膝を微かに落ち着かせて襲いかかる機会を計りだした。客観的に見ればとんでもない体勢なのだが、いかんせん家康の頭の中は三成に狙いを定める大蛇でいっぱいになっている。
 否々。主観的に見てもそれはとんでもない体勢だ。顔を家康のももで挟まれそうになっている三成が声にならない怒号を漏らす。股間のあたりに動いてきたのだろう、全身全霊をそちらに傾ける家康ごと蛇なんぞなます切りにしてやりたかった。

「――――家康!!」

 名を叫ぶ声が戦いの火ぶたを切っておとす。
 とはいえ、決着はあっという間についてしまった。
 毒を恐れない右手が蛇の顎を掴むと、迷うことなく家康は身をよじる。雨降りしきる穴の外へ力一杯蛇を放り投げた。

「ふう」

 開ききった瞳孔を、一息つくとともに平生に戻す。威嚇に逆立っていた毛が元に戻るような気がした。
 バランスが取れなくなったのだろう、また三成の身体の隙間をついて大地に四つん這いになってから、

「もう大丈夫だぞ」

 家康は股の向こうにいる三成に満面の笑みを向けた。

 

 

 いや、全然大丈夫ばないと思う。だってこれろくじゅー(げふんげふん)
 とりあえずこの場を借りて権現の尻はけしからんと主張するだけしとく
 

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