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「もしもしー。わしわしー」
・・・何語?
「三成、みつなり」
夜もとっぷりとふけた頃、三成は耳元で名を呼ばれた。小さく微か。しかし、沈んでいた意識を呼びもどすには十分だ。
しかも肩の辺りを遠慮がちにながら揺さぶられている。
幽霊にそなえて寝まいと努めていた体でも、いきなり声をかけられれば驚きは隠せない。びく、と体が強張った。
「起きてくれ」
知らない声だ。
寝ぼけた頭でそう思った途端、三成は一気に目が覚めた。
「―――誰だ!」
喚き様に手を塞ぐ。悲鳴を構わず声の主を床に伏せさせる。
押し倒した肩は予想より細かった。
三成とてひとかどの武人だ。誰かが部屋に忍び込もうものなら気配で分かる。自分と家康の間に忍び立つなど、相当の手練と見ていいだろう。刺客の危惧と隣で爆睡している家康の安否が三成の脳裏をかすめた。
「わっ」
とはいえ、それでは矛盾が目の前に転がり込むことになってしまう。布の感じからして、侵入者は寝巻のようなものを着ている。床ずれの音が酷い。これじゃ音なく人を殺めることなどできない。
当然、武器らしい武器など持っていない。
「―――っ」
暗殺者、という可能性が雲散霧消したことが信じられなくて、三成は声の主が女といえど容赦はしない、そんなおっかない雰囲気を醸し出した。
三成の名誉のために言及すれば、別にお化けだなんだが怖いわけではない。
現に泣く子も気絶しそうな剣幕で三成は自分の名を呼んだ侵入者に詰問を始めている。
「答えろ!!どうやってここに忍び込んだ!?」
返事の代わりに苦しそうな声が上がる。喉元に伸びた三成の手が女の気管を圧迫しているらしかった。
自由な女の手が懇願するように三成の手を滑っていく。たおやかな手だった。
「・・・。・・・」
このまま殺せば得られる真相は半減する。一瞬迷った三成は、手を緩めた。
月が隠れているため、明かりはない。そのため手に触れた細い女の手の感触が強く残っていた。
女は。乱れた息をつくと半身を起こし直した。生理反応で浮かんでくる涙をぬぐっている。暗がりでも女の体の線がよくわかる姿勢だった。
まだ苦しそうな声で、女が口をきいた。
「三成、わしだ」
その一人称には覚えがある。
しかし詐欺を働くにももう少し役者を選べと三成以外は突っ込む所だろう。
会話上の義務を放棄した三成は掠れた声で尋ねた。
「家康だ・・・と?」
確かに隣で(これでもかというほど無防備な姿で)寝ていたのは徳川家康である。
人の移動した気配はない。時々、悪夢にうなされる家康の寝返りがあったくらいだ。
「貴様、その声はどうした」
不機嫌を隠そうともせず尋ねれば、家康が笑ってる気がした。
「声だけじゃない」
「そうだ。いった・・・」
二の句が継げない。三成は息をするのさえ忘れそうになった。
月が顔を表す。
柔らかい光が三成の肩越しに差し込み、家康の顔を肩を胸を腹を腰を照らした。
「・・・!?」
三成のきつい眼差しの奥、二つの瞳孔が見開かれる。驚愕に顔を強張らせた三成を安堵させようと、家康はますます笑みを深くした。
疲れきった顔だと力無い失笑のように見えてしまった。誰でもそうだろうが、特に美女のそんな表情など、見るに堪えない。絵になるとしても、本物の笑顔を拝みたくなるというものだ。
家康が生涯最悪の災厄に襲われた夜にあった望月のような額が、寝癖で若干凄いことになっている髪の間から覗く。微かにハの字になった眉、黒目がちの瞳は長い睫毛に囲まれ、これまたすべすべとした家康の頬に影を落としていた。
体ごと一回り縮んだのだろう、昨晩はジャストサイズだった寝巻がぶかついている。
ただでさえ着乱れた状態で三成に押し倒されたため、胸元が大きくはだけてしまっていた。無論、そこにあるのはがちがちとした男の胸じゃない。
「い・・・え、や」
手で掴んで余るような実り豊かなおっぱ・・・これ以上はいうまい。
悲しいかな男の性で三成の視線は家康の谷間に注がれっぱなしだ。悲劇は連鎖し、家康はそいつに全く気づかなかった。
形よい唇からため息がもれる。心底参りきっている証拠だった。
「―――これがお前の見た女の正体だ」
そう家康は三成に告白すると、
「お前をかつぐ気なんかないぞ、何なら触ってみるか?」
正真正銘、本物の女体だから。
と胸を突き出した辺りで本気で三成に怒鳴られた。
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