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というわけで▽にいろいろ下手な方向にバレました。
遠征先から帰って早々。家康はこちらに早足で迫ってきた三成に胸倉を掴まれた。
「家康ゥゥゥ!」
「た、ただいま」
普段だったら平気の平佐な衝撃も、地に足のつかない憔悴しきった体には堪える。
ぐらと傾きかけた体をなんとか踏ん張ってみるが、それ以前に三成ががくがくとこちらを揺らしてくるのだからたまったもんじゃない。
いい感じにシェイクされる頭の中であの悪夢が蘇ってくる。胸の奥から吐き気が込み上げて、家康は顔をしかめまいと必死に疲れた笑顔を繕ってされるままになっていた。
それが三成の逆鱗に触れる。
「貴様ァ!」
なんだか己が主人を殺されたような剣幕だ(そして縁起でもない表現だ)。このまま嬲り殺しにされたって文句は言えまい。というより、反論しようものなら五倍返しにされそうである。 今の三成とやりあって五体満足で生還できる可能性は限りなく零だ。
「み、三成・・・」
身に覚えがなさすぎる。家康の周りには?マークが飛びつづけた。
「お前、もしかして怒ってるのか?」
分かりきったこととはいえ、一応尋ねておく。
すると今度はぐいとフードを手繰りよせられて、余計を真っ赤になった三成の双眸を拝む羽目となった。
正直阿修羅よりも恐ろしい。
「自分の胸に手を当てて聞いてみろ!!」
なんて三成が吠えても家康は、
「・・・と、言われてもなあ」
苦笑いを浮かべるよりほかない。
家康は言われた通り、自分の胸に手を当てる。
肥沃な、とはいえ正真正銘鍛え抜かれた男の胸がそこにはあった。
平然と変わらない家康の姿があるだけだ。だから一体が自分と三成の間に起きてるのかなんて計り知れない。
「・・・すまん、何も思い当たることがない。教えてくれ三成、わしは何かお前の怒りを買うようなことをしたのか?」
「・・・。・・・」
演技感などかけらもない、どこか不安さえ匂わせる家康の反応に三成は手を緩めた。
怒気が引いて行くのだろう、殺気までのまがまがしい雰囲気はなりをひそめ、どこか疑心暗鬼になった風が覗く。
大地に轟く遠雷のような声で家康にゆっくりと、しかし有無を言わさぬ勢いで尋ねた。
「・・・。・・・あの女は誰だ?」
「―――女ぁ?」
ますます分からない。素っ頓狂な声を上げる半面で家康はどきりとした。
昨日も一昨日も自分を襲った悪夢が蘇り、顔色が悪くなる。
三成はそれを見逃さなかった。
「――っやはり身に覚えがあるのだな!神聖な秀吉様の城に端女を連れ込むとはいい度胸だ!今ここで懺滅してやる、頭を垂れて首を差し出せ!!」
瞳孔を全開にして三成が牙を吠えたてる。
「―――・・・・」
ここまでいわれて家康も大体状況を把握した。
最悪といって憚らない、現状を。
「あ―・・・三成?」
お前、見たのか?
なんてまた怒りを煽るような言い回しを使えば、ますます三成の額が青筋立つ。
「白々しい、ひとつの布団にひとつの枕で寝ておきながらまだ言い逃れができると思ってるのか!?」
着目するところが違うだろう・・・と突っ込みたかったが、如何せん家康の頭の中はそれどころじゃない。
「・・・見たのか・・・」
三成の怒りは本物だ。そして家康に降ってきたのも紛れも無い本物の冤罪だ。不名誉な誤解といってもいい。
「三成、あのな・・・」
と、言いかけて止めた。口で説明しても三成のことだ、聞く耳持つまい。そうでなくても一般常識から考えてこんな荒唐無稽な話、信じろという方が無茶である。
(・・・致し方ない)
先人は偉大な言葉を残している。論より証拠だ。
そろそろ家康も、このトンデモな状況を一人で抱え込むことに疲れていた。
「…三成、お前今日夜詰めは?」
そう尋ねた一瞬、血の気を失うような悪夢が脳裏をよぎる。頭を振って振り払った。
「はぐらかすな家康!」
既に刀の柄に手をかけた三成をスルーして家康は「ねえんだな、よし」と頷く。
「三成」
勝手に話を推し進めないと三成との会話はいつまでも堂々巡りだ。
家康にしては思い詰めた顔で切り出した。
「今晩、一緒に寝てくれないか?」
◆
二つの布団に二つの枕。駄目押しとばかりに布団の距離は頭ひとつ分空いている。
一体何がどうなってこうなったのか話についていけない、しかししっかりがっつり寝巻に着替えた三成は家康を睨みつけた。
「貴様の枕元に幽霊でも立つというのか?」
冗談は言わない。三成が真面目に尋ねれば、「ははは、その方がありがたい」と暖簾に腕押しな答えがかえってきた。
「まあ、丑三つ時になればわかる」
なんて、意味深な言葉を残したあと、なにするわけでもなく家康はさっさと横になって三成に背を向けた。
「おやすみ、三成」
口調こそ柔らかいが、一方的に会話を切られた三成は不機嫌そうに家康に背を向けた。
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