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官兵衛にしてみれば複雑な感情から出た行動だった。
仲間だから助けた、だったらどれだけいいだろう。同じ豊臣の旗の下で戦っている。家康は紛れもなく官兵衛の仲間だ。だから助けた―――といいたかった。
真実は違う。七三、いや八二くらいの割合で官兵衛は家康を死地に置き去りにしてやろうと思っていたのだ。
(くそっ、くそっ、くそっ)
二人の率いる軍は奇襲くらい大破した。官兵衛なんて通常運転に悲惨なもので自分よりも大きな大砲の弾を一人で喰らい、「なぜじゃあああああ!!」と叫びながら夕暮れの一番星に自らがなった。
まだ幼さの残る家康もまた大砲が落ちた際生じた波にさらわれ、しょっぱなから姿を消した。役立たずも大概にしろというような戦働きだった。
それでも勝ちをつかんだのだろう。山影に逃げ失せる敵兵の恐れおののく姿を見て、なるほど戦国最強が火を噴いたんだなと官兵衛は納得した。
その背中には、家康が負ぶされている。
官兵衛は忌々しく呟いた。
「小生はいつからこんな腑抜けになっちまったんだ・・・?」
◆
家康同様、最終的に川に流された官兵衛はしこたま水を飲んでいたが、その驚異的な生命力を持って自力で立ち上がった。三成あたりに言わせればゴキブリ並み、といったところだろう。確かに火器をまともに食らって吹き飛ばされ、あまつさえ川に流れたというのに官兵衛はぴんぴんしている。
否。そうじゃない。
正確には自力で起きない限りだれも起こしてくれなかったのだ。官兵衛もまた敵兵がうじゃうじゃいるこの場所でいつまでも大の字に寝転がっておるつもりはなかった。
こういう時のしぶとさで官兵衛の右に出る者はない。ここがどこだかもわからない。しかしめげない。めげたいけど、そんな場合じゃない。
川の流れを上がっていけば戦地に戻れるだろう。物凄く単純明快な思考回路の末に歩を進めていくと、官兵衛は徳川家康が倒れているのを見つけた。
「やっぱり生きていやがったか・・・」
忌々しく呟く。味方がいたのだ。もっと喜ぶべきところだろうが、生憎官兵衛の心を染め上げたのは全く逆の感情だった。
その姿が傷一つなく、きれいなものだったことが官兵衛の心の平穏をぶち壊した。
(きれいな面じゃねぇか)
そう、濡れた家康の頬を睨みながら官兵衛は吐き捨てる。
まるで神の御加護のようだ。自然の力で打ち上げられたにしても、ご丁寧に姿勢まで整えてくれるはずがない。あたりには人気がなく、獣の仕業にしては仕事が出来過ぎている。
「・・・・」
どこまでついていれば気が済むんだ。
撃たれた右足の痛みがぶり返してきたのと同時に、官兵衛の腹の内から湧きあがってきたのはとてつもなくどす黒い感情だった。
「・・・・」
深夜厠にいけない子どもの様でも思い浮かんだのか。気分がよくなってきたのだろう、ふふん、と官兵衛は満足そうに鼻を鳴らす。
戦場では何が起こるか分からない。もともと小生と権現が一緒の方向に飛ばされたなんてい誰にも分からないじゃないか。どうせ戦国最強がついているんだ、今晩中には見つけてもらえるだろうさ。せいぜい、眼を覚ましてから数刻、墨を塗り潰したような暗闇に怯えておくことだな。
「忠勝―!」とお守の名を叫ぶ姿を思い描いて官兵衛はくつくつと卑屈な笑みを浮かべた。
小生も権現も帰った所で半兵衛たちにしこたまどやされるのだ。一晩行方不明になっていたなんておまけがつけば、いくら権現といえども言い逃れは出来まい。案外今回三成に真剣抜かれて追いかけまわされるのは小生じゃなく権現かもな。
「・・・。・・・権現、まだ寝てるのか?」
一歩、一歩と官兵衛は家康に近づく。すやすやという寝息さえ聞こえてきそうな無防備な顔を覗き込んだ。大砲の音はまだ轟いているというのに呑気なものだ。
しかし、どうしても官兵衛には家康が敵兵や獣の餌食になる姿が思い浮かばない。小生じゃあるまいし、こいつの運の強さは異常だ。だからこそ、置いていこうなんてひどい思いつきが降ってくるわけであって。
実際見てみろ、子どもの癖に数々の戦場から怪我ひとつなく戻ってきているじゃないか。それが戦国最強と三河侍のなす技だけのものだとは、官兵衛にはどうしても思えなかった。
ツキという超自然現象を、官兵衛は信じている。そうじゃなければ、自分と家康という存在に説明がつかない。
次に思うことは、―――不公平だった。小生が何をした。権現が何をした。何もしていないじゃないか。だというのに、この仕打ちは何だ。突き付けられた現状に、官兵衛はどうしても寛容になれない。
これくらいのしっぺ返しをしたって、罰は当たるまい。そう思えるほどに。
「ふん、小生を悪く思うなよ」
恨むんだったら、こんな所に置き去りにされた自分の運を恨むんだな。
なんて、滅茶苦茶な事を抜かしてから、抜き足さし足忍び足。官兵衛はその場から立ち去ろうとする。
途中家康の瞼がぴくと動いたような気がして官兵衛の心臓が跳ねた。まだ小さいという印象がぬぐえない口元からは何も聞こえない。吐息さえも。段々頭の冴えてきた官兵衛の観察力を持ってすれば、家康の今の姿勢が溺れたものにしてみればかなり苦しいものだということが分かってくる。
手を差し伸べようとして、官兵衛は盛大に首を振った。どうして小生が権現を助けなくちゃいかんのだと、自分で自分を叱咤する。そうじゃなければ、官兵衛の手は家康に触れてしまっていただろう。
もう一度家康の姿を見る。赤子のようだった。このまま放っておけば死んでしまうかもしれないのに、自分自身でどうしようともしない。無防備で呑気なものだ。いまこの瞬間、官兵衛に置き去りにされているというのに気づいてすらいない。
「・・・。・・・。・・・」
眼を覚ましたら、こいつは笑うんだろう。かんべ、と舌足らずに名を呼びながらくしゃ、と破顔する様が思い浮かんだ。
そこまでだった。
官兵衛は盛大に舌打ちした。
「ああくそ!こんな奴を見殺しにしたら寝覚めが悪いじゃねえか!!」
◆
そういて今に至るというわけだ。二股に分かれた川の、右と見せかけて左を選んだのが悪かったのだろう。官兵衛は家康をおぶったまま完全に迷子になっている。
狼の遠吠えさえ聞こえてくるような夜だ。心細いことこの上ないが、大の男が怯えても絵にならない。
やっぱりついていない。ツキの塊みたいな家康を背負っててもこの体たらくか。
官兵衛は忌々しそうにつぶやいた。
「これで寝起きの機嫌が悪かったら、今度こそ置いてくからな権現!」
返事はない。
まだ、家康は目覚めない。
気持ち良さそうに官兵衛の背中で寝こけていた。
豊臣時代の官兵衛さんは小悪党だと思ってまry
このあと目を覚ましたいえやすさんに「ありがたいとおもうなら尻をだせ」とか冗談で言っちゃう系の小悪党。そんなジャンルはないかww
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