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とある全国規模のチェーン店に入ろうとしたところで、家康は声をかけられた。それは長らく耳にしていなかった懐かしい声だったが、懐かしさ以前に、目の前の全国規模のチェーン店と己の格好を恨む。
「あれ?あそこにいるのって・・・おーい、家康、家康かー?」
いささかまずいところで出くわした、と自然と顔に疲れが出てしまう。自分の名前を呼ぶ声には憶えがある。かつては前田の風来坊と呼ばれた傾き者、前田慶次が確信めいた口調でこちらに近づいてくる。もう逃げ場はなかった。
「うわー、ひっさしぶりー!アンタもこの近くに住んでたんだなー」
昔の事を思えば気さくな接し方は嬉しかったが、家康の反応には若干気まずさが残る。
「慶次は、・・・大学生か?」
「いんや高校、春休みだからさ」
私服なんだよ。とにかっと笑った。
(相変わらずだ・・・)
そういう家康は?という返しに家康は内心ため息を漏らしてから、
「一応、来年から大学に進学するんだが・・・」
と半分投げやりに告白した。
慶次の声が濁る。信じられないという表情を隠そうともせず、人の事を指差して叫んだ。
「マジで・・・?」
そのまま男性ファッション雑誌に読者モデルとして載れそうないでたちの慶次に引き換え、家康の格好は男子中学生の春休みそのものだった。
だって、ちょっとぶらっとの気持ちで外に出たのだから。なんて、苦しい言い訳はやめよう。
元より家康に服を楽しむという感覚は薄い。
たぬきを。プロデュース(出オチですいません・・・)
「だいたい大学入ったら毎日私服なんだからそれなりに気を使わなきゃだめに決まってんだろー!」
ぶりぶりと怒りながら慶次は行きつけだという洋服屋に家康をひっぱっていった。
「し○むらはだめだろ、しま○らは!」
確かにさいきんの○まむらは流行にもアンテナ立ててると思うよ!ちゃんとチノパンとか置くようになってるの見て感心したさ!
「でもなんかおしいって思わないか?」
「・・・・。・・・・どこがだ?」
ちなみに家康のなかでは私服のパンツ=ジーンズという鉄の法則が出来ている。チノパンと言われても一瞬なんだか分かっていなかった。
「んー、そりゃカットのラインっていうか、生地の質感っていうか・・・あと余計な所にワッペンやらスタッズやらつけてくるじゃん。ああいうの見るとおしいって思うんだよね」
あれつけないで売ったら相当お得な感じがするよなー、と顔をほころばすあたり、安い服という部分でしまむ○を忌避しているわけではないらしかった。
「そんな格好じゃ絶対モテないだろ!」
「余計な世話だ!!」
けらけら笑われて家康は子供じみた声を挙げる。これじゃどっちが年上だか分からなかった。
「バサラ大なんて頭いいじゃん、これで着るものちゃんとしてれば女の子がほっとかないよ」
「あのなー・・・」
はしゃぐ慶次をよこに家康は憔悴しきった声を挙げた。自分には不似合いなおされ空間に体力をガンガン削られている。ハウスミックスされたBGMやコンクリートむき出しの無骨な店内レイアウト、そこに一点一点美術作品のように置かれた服と自分はかけ離れ過ぎている。慶次はしっかりばっちり溶け込んでいたが。
確かに家康は大学に入る。しかし正直な話、登校手段は自転車だし中高続けているバスケは一般サークルでなく体育会に入ろうかと考えている。着替えの時間が面倒くさくなりきっとジャージ生活をするに決まっていると物凄くものぐさな事を考えていた。
慶次に○まむらに安いジャージを買いに行こうとしていたと言ったらそれこそ今のような嘆き方では済まないだろう。
「あ、これなんてどうだ家康!」
「うげっ」
弾んだ声に家康が引いた。慶次の手にはどう考えても芸人しか気なさそうな柄のハーフパンツが握られている。色こそ白を基調としているが、どきつい色の印象はぬぐえなかった。
ないない、絶対ないと首がもげそうなほどに家康が首を振った。
「大丈夫だって!アンタ昔もこんな感じの戦装束着てたじゃないか!」
「400年も昔の事をもってこられてもなぁ」
「それにこういうのはレギンスでつなげれば違和感なくなるから」
「レギンス?」
初めて聞いた単語を家康は繰り返す。なぜかパスタのようなものを想像した。
その反応に慶次は「本っ当に着るものに興味ないんだな」と苦笑いする。
「そうだな、タイツがくるぶしあたりから切れちゃってる・・・いや、スパッツの丈が長くなったものだと思えばいいんじゃないかな?」
「それは、女の子が着るものじゃないのか」
知らないのは単語だけだったのだろう、街角で見るレギンスの使いどころは流石の家康も心得ているようであからさまに嫌な顔をした。
「最近はレギンス男子っつって男もレギンスはくから大丈夫だって!あったかいんだぞ!冬でも半ズボンはけるんだぞ!」
買っとけ、な、な!とあれよあれよという間に家康の持たされていた籠は服でいっぱいになっていった。
◆
2時間後、家康は何故か孫市のマンションに連れ込まれていた。昔と変わらず、慶次はヒモのように孫市の所に通い詰めているらしい。社会人として立派に働いている孫市は、驚く気配もなく久しぶりに再会した東軍総大将を迎え入れた。
「死ぬ気でバイト探さないとな・・・」
これじゃ教科書も買えない・・・。と家康は心底疲れ切った声で孫市宅の廊下にへたり込んだ。
その脇には服の山が出来上がっている。ついでに財布、時計、靴、メッセンジャーバックと、一通り大学デビューの品々が並んでいた。結果として家康の古い財布の中には春とは思えない空っ風が吹いている。
あれから己の財布の中身を死守するため、家康と慶次の攻防戦が続いた。一応、譲歩案としてデザインのインパクトが欲しいものは慶次御用達のセレクトショップで、それ以外のものはこの国が世界に誇るファストファッションで継ぎ足しに買うというところで落ち着いたが、「決算期セールだ!」とテンションが女子張りに上がった慶次を止める術を家康は持っていなかった。
両手に持ち切れない程、服を買ったのは初めてである。しかも女の子ではなく自分の服だというのだから二度とこんな体験しないだろう。とどめに慶次に半分以上持ってもらっているというのだから、次、女に生まれ変わってもありえない出来ごとに違いない。
「孫市にも服見繕ってやりたいんだけどさー」
「カラスめ。貴様の見立など眼に見えている」
「ひっど!」という慶次の声が曇りガラスの扉越しに聞こえてくる。タグが首のあたりでチクチクと痛むが、それよか、不安からくる緊張の方がひどかった。今の孫市の言葉が本当なら、慶次の選んだ服はやはりぎりぎりのラインでおしゃれというよりおかしいのだろうか。
「慶次、孫市・・・」
「お、着替え終わったかー?」
家康ではなく、慶次が勢いよく扉を開けた。
「わっ・・・、えっと・・・」
「――――・・・・」
「・・・」
孫市はいつものこととはいえ、慶次が表情をなくしたのが辛かった。耳まで真っ赤になって家康がしどろもどろに廊下に引っ込もうとする。もはや何かの羞恥プレイのようだった。
「へ、変だよな・・・」
「――わいい」
「え?」
「かっこかわいい!!」
「どわあ!」
むぎゅーっ!と慶次が抱きついてきた。まだ成長の余地がある体格とはいえ、元がでかいのだ家康とはいえひとたまりもない。
パーカー部分のボリュームによって上半身の印象は大きく変わる云々熱く語っていたことは本当だったのだろう、一瞬奇抜な色に見えるそれも家康はさらりと着こなしていた。
「やっぱダテメいい!かわいい!!腕ちょっと見せてみて!そうそうまくって!うわかっこいい!やっぱディーゼルの時計クレジットで買わせて正解だった!かっこいい!うわー!うわー!」
やたらハイテンションの慶次に家康はついていけない。言われたとおりにメッセンジャーバックを持ってみたりベストを羽織ってみたりとする度に慶次が大はしゃぎする。孫市にしてみればいつものこと過ぎるのか、一人でコーヒーを飲んでいた。
「家康!やべぇ、あんた滅茶苦茶かわいいよ!!」
それは現代における慶次の最高の褒め言葉なのだが、というより女子高生のように何が飛んできてもかわいいと叫びたくなるお年ごろなのが慶次なのだ。家康には全く理解できない。むしろ馬鹿にされているのじゃないかとさえ思ってしまう。
「慶次、かつぐのはやめて・・・」
「かついでなんてない!」
家康の言葉を遮って慶次が叫ぶ。スタイリストのように家康の素人くさい着方を矯正しながら続けた。
「俺は、真剣にアンタを格好良くしたいと思ってるし、実際今のアンタは格好いいよ。うん、――――惚れるよ」
なんて、ナンパスイッチが入ったのか、いたずらっ子のような眼を輝かせれば家康が年長ぶった吐息を漏らす。もとの年上年下関係が手伝ってあまり効果はなかった。
「だからさ、」
なんて、さらに距離を密着させれば家康がロンTの襟で口元を隠した。それくらいに近かった。
初心な生娘でも相手している気になったのだろう、こういう時前世の記憶がある人間は今の年齢以上の振る舞いを平気でする。
瞳を眇め、慶次は不敵に笑った。なるほどこういう風な顔をすれば普通に専属モデルとして雑誌の表紙を飾れそうだった。
「俺にもっと可愛いとこみせて・・・・」
酷い音に孫市が雑誌から顔を挙げる。
「すまん、孫市!いきなりだったから加減できなかった!!」
と本当にすまなさそうな顔をしている家康に向かって気にするなと手を振る。
殴り飛ばされた恋人には見向きもしなかった。
先に言っておく、黄色ちゃんは俺のお花ちゃんだからそこんとこよろしこ。
黄色ちゃん可愛いよオトメン可愛いよハァハァ
あと慶次はオシャレ番長なのかぎりぎりオシャレ番長なのかおされ(笑)番長なのか・・・どれでもいいな。
あ、し○むらさんはオシャレですよ!最近雑誌とコラボしてるし!!
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