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やっさんドマイナー祭りはじめます。
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 家康さんだもん、絆されると書いてほだされてもいいじゃん。松永さんだもん、紳士っぽいっていうか大人っぽいとこに夢見てもいいじゃん。一見すると普通の恋の始まりのようだが、松永は悪人属性。家康はピーチ姫属性。ここ大事。


 

 意識を失っている間に命を奪われていてもおかしくない。
 だから、家康は自分が五体満足で目を覚ましたのが信じられなかった。
 加えるならば、白い寝巻きに着替えさせられ、干したばかりと分かる布団に寝かせられるような丁重な扱いを受けていることに絶句した。
 目の前に広がる穏やかな庭を見れば、呟きたくもなるだろう。
 
「ここは・・・?」
 
 乱世の世とは思えぬ静けさだ。
 本当に死んで、涅槃に来てしまったのかと思うほどだった。
 
「気がついたかね?」
 
 松永の姿を見るまでは。
 
「・・・」
 
 家康の顔が強張る。自らに与えられた待遇から松永の真意が読めず、あからさまな嫌悪は見せなかったが、警戒心はしっかりと持っている。そんな感じだ。
 
「松永殿、これは一体どういうことなんだ?」
 
 ここはどこだとは聞かなかった。松永がいる時点でここは極楽ではない。紛うことない現世だ。そう考えるくらいには、家康は人並みの思考を持っている。昔、酷い目に遭っているならなおさらだった。
 それでも三成や政宗から見れば、お人よしの類に入るだろう。二人だったら、遅い早いはあれど、もう松永に刃を向けているはずだった。
 
「どういうことだとは?」
「何故ワシをこんな所に」
「気に入らなかったかね?卿なら気に入ると思ったが」
「確かにすばらしい庭だが・・・。物事には時期があるだろう」
 
 ずれた返事にずれた突っ込み。それでも会話は成立したものだと思っている所は、松永も家康も意外に似た者同士なのかもしれない。
 松永は愛おしそうに庭を見つめる。特段趣向にこだわっている様子はない、何の変哲もない庭なのだが、世の趨勢を思えば奇跡の様だった。
 遠くで子らのはしゃぐ声すら聞こえる。
 その無邪気な声に家康の眼がしらは熱くなった。
 
「全てが終わってから、見たかった景色かね?」
 
 家康の口元は僅かにほほ笑んでいた。釈迦や如来のように。苦しみを見たからこそ焦がれて止まぬとばかりに。小春日和の箱庭を見つめる。
 
「ああ、・・・そう、そうだ」
 
 ワシはまだ、何も終わらせていないから。
 そう、辛そうに黄金色の瞳を伏せた。
 
「・・・。・・・」
「・・・。・・・」
 
 言葉が十分な働きをしていない。
 全くもって言葉が足りていない。
 
「――――・・・」
「――――・・・」
 
 言うだけ野暮だと二人とも分かっていた。
 目の前には平穏がある。血なまぐさい言葉で穏やかな日差しを汚すことは、松永も頭の足りない下種のすることだと考えるし、家康は平和な言動を好んだ。
 松永にしてみれば、牙をむかない家康に付け込んで言葉責めに心を壊す余地などいくらでもある。少しでも家康が耳につくような紛いもの決意を吐けば、松永は容赦などしなかっただろう。
 だが、やらない。
 大人の男だからこそ様になるほほ笑みを浮かべて、家康の反応を待っていた。
 
「・・・」
 
 家康は松永の視線を逃れるように庭を見つめる。年上の、松永の様な男の包容力に惹かれてはいけないと身を律するようにも見えた。
 
「東照・・・」
 
 屈強な身体の持ち主が、背をしゃんとさせて身を起こしているというのに、白い寝巻きのせいか、本物の陽を前に姿がかすむせいか、家康の背中はどこか儚かった。
 昼下がりの陽の光に似て、淡く霞み、そして香る。
 
「だから帰してくれ、松永殿」
 
 家康は丁寧な口調で頼んだ。何と柔らかな顔だろうと松永は思う。
 恐らく松永が今まで出会った男の中で最も立派な命乞いであり、命令であった。
 
「・・・」
 
 数秒の静寂が流れていく。松永の足音は全くしなかった。
 家康は松永から目を離さない。たとえ自分の頬に片手を添えて、息のかかりそうな距離まで近づいたとしても、瞳をそらすことは、ない。
 
「東照・・・それは出来ない相談だ」
 
 家康は眉一つ動かさない。硬い表情ではあるが、睨みを利かせることはない。
 それが、松永にしてみれば笑いたくなるほど重畳なことだった。
 自分が見込んだ男だけある。陽の光になろうとするだけはある。触れれば骨をも溶かすような熱を孕んでいるというのに、どれだけ手を近づけようと温もりしか与えない。
 どこまで離れようとそこにあって。
 どこまで近づこうと届かない距離を保つ。
 
((手に入れたい))
 
 この稀有な光を籠の中に入れて愛で続けたい。
 松永の本性が腹の奥で低く唸った。消して家康には見せない。この男に、物欲といった狂気は逆効果だと松永という悪人は良く知っている。
 
「東照、」
 
 だから慈しむふりをする。
 寂しく優しげな笑みで。
 家康のお人よしな部分を丹念に刺激する。
 
「家康―――――と呼ばれる方が好きかね」
 
 家康が僅かに見せた動揺に、わざと朗らかな声を上げて笑う。そして瞳を眇める。
 何度も何度も。撫でるように。擦るように。それが、松永久秀という男の真意だと錯覚させられるほどに。
 卿に情を持っているのだよと言わんばかりの甘い声で、名を呼び続ける。
 するとどうだろう、家康の声に少しずつではあるが余裕がなくなってきた。
 
「松永殿・・・頼む」
「できないと、何度言わせるのだね」
「ワシはここにいてはいけない」
 
 肩に手を添える。家康の身体が強張るのが分かり、松永は手ごたえをつかんだ。
 
「東照。そんな顔で言われてしまっては、私はますます卿を帰せない」
「ワシは・・・戦わなくてはいけない」
「それは卿の本心か?」
 
 松永は家康の顔を覗き込む。
 きらきらと揺れて光る双眸を、貪欲な目で見つめた。
 
「卿の様な優しい男は――――戦うことなど、望んでいない。違うかね」
「―――――――違う」
 
 瞬き一回。それで家康は松永の絡め手をはねのけようとした。
 松永自身、理解に数秒を有してしまう。この手の男は十人が十人、偽善者だ。そう、松永は確信していた。矛盾をつけば、激昂し、または落胆し、心を自ら折る。家康の反応は意外すぎた。
 家康は罠に気がついた。まずはその抜け目のなさに感服する。
 そして、家康の矛盾の深さに禍々しい笑みを浮かべたくなった。
 この男、矛盾を矛盾のままに飲みこんでいる、と。
 だからまだほほ笑み続けていられるのだ。
 
「なるほど、卿はそんな大人になったのだな」
 
 家康の警戒心がまた上がっているにもかかわらず、松永は思っていることをそのまま口にした。
 
「くく、」
 
 さて、この男の静かな激情をどう鎮めようか。思案する。目の前にいる徳川家康というこの男、気が緩んでいる時はどこまでもおおらかで、時々間抜けと呼ばれる部類に近い騙され方をする。
 同じ手を何度も使うことは松永も愚策だとは思ったが、どうしても、家康を女の様に欺きたかった。
 力ずくで閉じ込めることなどしない。優しげに接し、善良な部分に付け込み、甘い囁きで骨抜きにし、柔らかな態度を楽しみたいと。
 そこら辺の女と違う所を上げるならば、この男は聡い。
 
 そして底抜けに優しい。
 
 騙されていると知りながら、人の善性というものを信じてほしい。
 優しく、ほほ笑み返してほしいと、
 松永はいたって素直そうに、都合のいい感情をつなぎ合わせて告白した。
 
「どうだね。東照」
 
 家康は。
 
「松永・・・殿」
「それすらも、無理な相談なのかね?」
 
 東照と呼ばれる度に、黄金色の瞳を揺らした。
 口もをからは笑みが消えていた。
 
「一度でいい。それ以上は私も望まない」
 
 
 私のこの胸に生まれたものに、賭けてみてくれ。
 
 
「あ・・・、その・・・」
 
 家康は呆けた。もう、肩が当たりそうな距離まで迫られていることもあるだろう。
 耳まで赤くなり、松永の視線から逃れるようにそこら中に目をやっている。それじゃ勘弁してもらえないと悟ると、
 
「すまん。・・・あなたの様な人からそんな言葉を聞くとは思わなくて・・・」
 
 正直、驚いている。
 泣きそうな声で、ぶっちゃけた。
 
「ははは、そうだろうな」
「すまん・・・」
 
 毅然とした態度は完全に吹き飛んだ。今目の前にいるのは、成熟しきった男の色香に当てられて縮こまる生娘だった。
 肩を支えていた手を首に回す。松永が低く囁いた。
 
「―――――――――東照」
 
 家康の鼓動が聞こえてきそうだ。
 抵抗はない。家康も松永の肩に手こそ置いているが、全く力がこもっていない。
 
 
 松永は太陽を手に入れた手ごたえを得た。
 
 
 
 
 
・なんとなく松永さんとだったら経験済みでもバージンっぽい反応になりそうなやっさんぷまい
・他カプとの雰囲気をちらつかせながら、三河のピーチ姫が絶対悪人にしかなれない男と禁断の愛に揺れる本がどっかに落ちていないかな
 

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