やっさんドマイナー祭りはじめます。
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松家に乗るなら今しかないと思って・・・
☆時間軸とかめちゃくちゃ注意!
うだるような暑さかもしれないが、音を聞けば晩夏はもはや夏とはいえないものだ。
そんなような事を松永は嘯いているように聞こえた。まだ薬が効いて、家康の意識が朦朧としている。
思ったのは、なんだか今川の屋敷にいたような頃を思い出すなというような酷く間の抜けた感想だった。
耳を澄ます。蝉の大音声の隙間、微かにひぐらしの声が聞こえた。
「ああ、なるほどな」
穏やかな声で返事をすれば、松永の瞳の奥も笑う。
とてもじゃないが拐かされ、拐かした間柄が絡める視線ではなかった。数年来の付き合いを思わせる程二人の表情は落ち着き払っている。
家康に至っては、表情自体到底10代の若者には見えない程だった。
まるで松永と同年のよう。
「・・・卿はあの日にもなりたいのかね?」
そう、山間に消えていく日の塊をちろと捉える。流し眼ひとつとっても色気の男だ。
家康は少し返答に時間をかけた。
松永との会話は一つ一つが問答のようだ。安易に答えを出してはいけない。
下手すれば命を失うことになる。
喉の渇きを覚えても、決して椀の冷茶には手を伸ばさなかった。
「・・・・そうだな。いつかはなりたいと思う」
「くくく、卿は変わった男だ」
「そうか?」
「そして夜の世界を照らしに行くつもりかね?」
喉を鳴らし松永は家康を両の眼で見る。丁度本物の太陽に背を向けたせいか、部屋の奥に座する東の将はつましい光を放っているように見えた。
「どうだね、ここから逃れる算段はついただろうか?」
少しだけ顔を凄ませて尋ねるが、家康は眉一つ動かさない。ここに連れてこられてからの家康の動きを松永はずっと眺めていたが、立派なものだった。
敵を恐れず、侮らず。媚びることも、威嚇することもない。捕虜としては一級の振る舞いだ。凛とした家康の態度は湿気と熱気でどうにかなりそうな夏の午後にはちょうどいい。
だから茶に誘い、家康はそれに乗った。
ますます面白い。
「そうだな。正直に言ってしまえば、仲間を信じるよりほかないといったところか」
「仲間を信じる、卿の好みそうな言葉だ」
「ふふ」
「しかしそれは一体誰の事だ?」
「・・・」
「西海の鬼か?奥州の竜か?凶王か?それとも戦国最強か?」
「・・・」
「卿はそもそも今がいつかも分かっていない。だとすれば、一体誰を待っている?」
「・・・」
意地悪く立ち位置を変えてやった。瞳を焼き殺すような西日が家康に突き刺さる。
黄金色の瞳が揺れる。家康の顔を少しゆがませたことで松永の心は僅かに満たされた。
「・・・ワシは、――――誰でも構わんよ」
「ほう」
ついつい口元がゆるんでしまう。無言で続きを促した。
「元親でも、独眼竜でも、三成でも、忠勝でも。ここに来てくれれたのが誰であれ、ワシはその絆に感謝する」
「なるほど。卿らしい、及第点の回答だ。ならば――――」
誰も こなかったら ?
家康の瞳が見る見るうちに凍っていくのが分かる。先ほどまで陽の光を受けて揺らめいていた双眸は、冷めた金属のように微動だにしなかった。
松永は背筋が凍る程にそれが美しいと思った。
詰んだ、と多くの智将が思うだろう。家康の身体は既に甘い毒がまわり、部屋に飾られた宝物の持つ記憶を断片的に組み合わせれば、外の世界で何が起きているなど知るにたやすい。
しかし、松永は違った。
知っている。この男は、太陽に例えられる。
昇り、照らし、隠れ、暖め、焼き、沈む。
あくまでこれは一面でしかない。
「・・・そうだな」
見る見るうちに、眉尻がさがる。毒気が抜かれてしまいそうな声で家康は答えた。
「そうしたら松永殿とこうやって語らい続けるさ」
「くははははははっ」
とうとう耐えきれずに破顔した。少々天を仰いで笑う。家康の様子を僅かに見れば、幼子のようにきょとんとしている。笑い死にさせる気か。
「卿は・・・卿は・・・くくく」
「なんだ?どうした?」声色はまた変わった。純粋無垢というよりは悪戯盛りの子どもの様なひねくれた顔。確信犯的にやってやったんだと言わんばかりの表情。
「・・・・」
「・・・ん?」
ここで「ん?」はないだろう。それは反則だろうという言葉が喉まで出かかった。
常人だったら発狂している。
一体この男の真意はどこにあるのかと。
狂おしいまでの激情を抱いて、それでもなお、目を反らせずにはいられなくなる。
「卿は、自分が善人だと思うかね?」
「うーん、そうだな。そうありたいと思っている」
「ならば、悪人だと思うかね?」
畳みかけるように聞いた。
「そうはなりたくないな」
家康の返答もはやい。
「夢を追うことは大事だと思うかね?」
「当たり前だ」
「では現実を見極めることは?」
「もちろん必要だと思う」
「人を傷つけることは」
「したくない」
「止む追えない場合は」
「悔やむだろう。立ち止まることだって必要だ」
「明るい男といわれている卿でもそんな顔をするのだね」
「よしてくれ。じろじろ見られると照れるよ」
「くくく、東照」
「なんだ?」
「卿は人に何と呼ばれている?」その質問に家康は本気で考え込んだ。
ここから逃げる算段も、松永と戦う決意もひとまずにおいて。
「狸・・・かな」
この返答に家康の頭の回転の良さや性格が全て現れていた。
松永はほほ笑む。開け放した障子の側に立てば、畳にしみついた香の甘美な刺激からは逃れることが出来た。
「なるほど。しかしもっとぴったりな言葉があるだろう」
「?」
家康の瞳を覗きこむ。眠いのか、とろんと今にも溶けてしまいそうだった。
夕刻だろうとかまわず押し倒したいという衝動にかられるような、無防備な姿だ。薬のせいとはいえ、先ほどまで見せていた誇り高い態度からは考えられない。
「悪女だ」
「・・・」
「西海、奥州、凶王・・・多くの男の最期を見たが悲惨なものだ」
家康の顔が先ほどとは違う意味で強張る。
松永がもっとも好む顔だった。
「卿はその目で一体何人の男を狂わせてきたのだね?」
家康に惹かれるのは悪女に惚れるのに似ている。
共に正体が捉えきれない。
人生の振り幅があまりにも大きすぎる。
善かと見れば悪であり、悪かと見れば善である。
徹底した現実家かと思えば、途方もない夢追人である。
始末に悪いのは、どの姿をとっても妙に妖しく、人の心をそそってやまないことだ。
(影武者徳川家康)
滾 る 以 外 に 何 を し ろ と ! !
読んだ時はあー、あたってるあたってると思ってしまったので是非松永先生の口から言ってほしかった。
この二人は何となく前提カプありの不倫カプみたいだ。
うだるような暑さかもしれないが、音を聞けば晩夏はもはや夏とはいえないものだ。
そんなような事を松永は嘯いているように聞こえた。まだ薬が効いて、家康の意識が朦朧としている。
思ったのは、なんだか今川の屋敷にいたような頃を思い出すなというような酷く間の抜けた感想だった。
耳を澄ます。蝉の大音声の隙間、微かにひぐらしの声が聞こえた。
「ああ、なるほどな」
穏やかな声で返事をすれば、松永の瞳の奥も笑う。
とてもじゃないが拐かされ、拐かした間柄が絡める視線ではなかった。数年来の付き合いを思わせる程二人の表情は落ち着き払っている。
家康に至っては、表情自体到底10代の若者には見えない程だった。
まるで松永と同年のよう。
「・・・卿はあの日にもなりたいのかね?」
そう、山間に消えていく日の塊をちろと捉える。流し眼ひとつとっても色気の男だ。
家康は少し返答に時間をかけた。
松永との会話は一つ一つが問答のようだ。安易に答えを出してはいけない。
下手すれば命を失うことになる。
喉の渇きを覚えても、決して椀の冷茶には手を伸ばさなかった。
「・・・・そうだな。いつかはなりたいと思う」
「くくく、卿は変わった男だ」
「そうか?」
「そして夜の世界を照らしに行くつもりかね?」
喉を鳴らし松永は家康を両の眼で見る。丁度本物の太陽に背を向けたせいか、部屋の奥に座する東の将はつましい光を放っているように見えた。
「どうだね、ここから逃れる算段はついただろうか?」
少しだけ顔を凄ませて尋ねるが、家康は眉一つ動かさない。ここに連れてこられてからの家康の動きを松永はずっと眺めていたが、立派なものだった。
敵を恐れず、侮らず。媚びることも、威嚇することもない。捕虜としては一級の振る舞いだ。凛とした家康の態度は湿気と熱気でどうにかなりそうな夏の午後にはちょうどいい。
だから茶に誘い、家康はそれに乗った。
ますます面白い。
「そうだな。正直に言ってしまえば、仲間を信じるよりほかないといったところか」
「仲間を信じる、卿の好みそうな言葉だ」
「ふふ」
「しかしそれは一体誰の事だ?」
「・・・」
「西海の鬼か?奥州の竜か?凶王か?それとも戦国最強か?」
「・・・」
「卿はそもそも今がいつかも分かっていない。だとすれば、一体誰を待っている?」
「・・・」
意地悪く立ち位置を変えてやった。瞳を焼き殺すような西日が家康に突き刺さる。
黄金色の瞳が揺れる。家康の顔を少しゆがませたことで松永の心は僅かに満たされた。
「・・・ワシは、――――誰でも構わんよ」
「ほう」
ついつい口元がゆるんでしまう。無言で続きを促した。
「元親でも、独眼竜でも、三成でも、忠勝でも。ここに来てくれれたのが誰であれ、ワシはその絆に感謝する」
「なるほど。卿らしい、及第点の回答だ。ならば――――」
誰も こなかったら ?
家康の瞳が見る見るうちに凍っていくのが分かる。先ほどまで陽の光を受けて揺らめいていた双眸は、冷めた金属のように微動だにしなかった。
松永は背筋が凍る程にそれが美しいと思った。
詰んだ、と多くの智将が思うだろう。家康の身体は既に甘い毒がまわり、部屋に飾られた宝物の持つ記憶を断片的に組み合わせれば、外の世界で何が起きているなど知るにたやすい。
しかし、松永は違った。
知っている。この男は、太陽に例えられる。
昇り、照らし、隠れ、暖め、焼き、沈む。
あくまでこれは一面でしかない。
「・・・そうだな」
見る見るうちに、眉尻がさがる。毒気が抜かれてしまいそうな声で家康は答えた。
「そうしたら松永殿とこうやって語らい続けるさ」
「くははははははっ」
とうとう耐えきれずに破顔した。少々天を仰いで笑う。家康の様子を僅かに見れば、幼子のようにきょとんとしている。笑い死にさせる気か。
「卿は・・・卿は・・・くくく」
「なんだ?どうした?」声色はまた変わった。純粋無垢というよりは悪戯盛りの子どもの様なひねくれた顔。確信犯的にやってやったんだと言わんばかりの表情。
「・・・・」
「・・・ん?」
ここで「ん?」はないだろう。それは反則だろうという言葉が喉まで出かかった。
常人だったら発狂している。
一体この男の真意はどこにあるのかと。
狂おしいまでの激情を抱いて、それでもなお、目を反らせずにはいられなくなる。
「卿は、自分が善人だと思うかね?」
「うーん、そうだな。そうありたいと思っている」
「ならば、悪人だと思うかね?」
畳みかけるように聞いた。
「そうはなりたくないな」
家康の返答もはやい。
「夢を追うことは大事だと思うかね?」
「当たり前だ」
「では現実を見極めることは?」
「もちろん必要だと思う」
「人を傷つけることは」
「したくない」
「止む追えない場合は」
「悔やむだろう。立ち止まることだって必要だ」
「明るい男といわれている卿でもそんな顔をするのだね」
「よしてくれ。じろじろ見られると照れるよ」
「くくく、東照」
「なんだ?」
「卿は人に何と呼ばれている?」その質問に家康は本気で考え込んだ。
ここから逃げる算段も、松永と戦う決意もひとまずにおいて。
「狸・・・かな」
この返答に家康の頭の回転の良さや性格が全て現れていた。
松永はほほ笑む。開け放した障子の側に立てば、畳にしみついた香の甘美な刺激からは逃れることが出来た。
「なるほど。しかしもっとぴったりな言葉があるだろう」
「?」
家康の瞳を覗きこむ。眠いのか、とろんと今にも溶けてしまいそうだった。
夕刻だろうとかまわず押し倒したいという衝動にかられるような、無防備な姿だ。薬のせいとはいえ、先ほどまで見せていた誇り高い態度からは考えられない。
「悪女だ」
「・・・」
「西海、奥州、凶王・・・多くの男の最期を見たが悲惨なものだ」
家康の顔が先ほどとは違う意味で強張る。
松永がもっとも好む顔だった。
「卿はその目で一体何人の男を狂わせてきたのだね?」
家康に惹かれるのは悪女に惚れるのに似ている。
共に正体が捉えきれない。
人生の振り幅があまりにも大きすぎる。
善かと見れば悪であり、悪かと見れば善である。
徹底した現実家かと思えば、途方もない夢追人である。
始末に悪いのは、どの姿をとっても妙に妖しく、人の心をそそってやまないことだ。
(影武者徳川家康)
滾 る 以 外 に 何 を し ろ と ! !
読んだ時はあー、あたってるあたってると思ってしまったので是非松永先生の口から言ってほしかった。
この二人は何となく前提カプありの不倫カプみたいだ。
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