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一度でいいからやってみたかった「破廉恥!」ネタ

 
 
 
 あえてここで明らかにしなくてもいい事実なのだが、徳川家康という男は存外女々しい。気にしていないという表現は酔っぱらいの酔っていない発言に等しく、ニコニコとした笑顔の裏で涙をぬぐっていることなんてざらにあったりする。
 我慢強い性格というのも、もともと傷ついていると自覚するからこそ発揮できる能力だ。
 故に、ただでさえ気まずい関係にある真田幸村から「破廉恥っ!」と言われた翌日には、ずうううんと重たい空気と一緒に起き上がるのだった。
 
「破廉恥・・・」
 
 ぽそっと呟いたのが聞こえたのだろう、慶次がくりくりとした目をして家康の方に向き直った。
 
「あー、まだ引きずってんのか?」
「いや、そんなことはない」
 
 家康が存外傷つきやすい性格なのと同じくらい、慶次も存外、場の空気が読めた。少なくとも今回は家康の顔に「ううう、真田にこれ以上嫌われたらワシ心臓もたん・・・」と叱りばっちり書いてある。流石の慶次もこれくらいは読めたといえよう。
 
「大丈夫、大丈夫!アンタだって幸村のあれは口癖みたいなもんだって知ってるだろ!」
「でもなぁ・・・一体ワシが何をしたっていうんだ・・・?」
「んー・・・そうだなぁ・・・」
 
 記憶の糸を手繰りながら慶次は自分が罵られた時を思い返す。家康の現状と照らし合わせてみればおのずと答えは振ってくるというもので。
 
「東軍に女の子ばっか集まってるからじゃない?」
「えええ!?」
 
「孫市だろー、お市さんだろー」と指折り数える慶次の脇で家康は頭を抱えた。確かに己は東軍の長を務めるものだが、意図的にハーレムを作り上げようという気はさらさらない。女だから仲間にした訳でなく、仲間になったのがたまたま女性だったというだけだ。
 
「家康はなー」
 
 と慶次が含みを持たせて言葉を溜める。
 「な、なんだ!?」と完全にからかわれている事を承知の上で家康は慶次に縋りついた。
 
「女の輪に無意識にはいりこむっていうか、中にはいっても普通に話題についていくっていうか。うん、そう。そういう所が幸村から見たら破廉恥なのかもな」
 
 よく分からない。慶次一人が納得してびし、っと指を指す。要は女性に囲まれても動揺しない様が侍らせているように見えると言いたいらしかったのだが慶次の表現方法は甘い。
 う、うーんと家康のわりかし出来のいいはずの思考回路がオーバーヒート気味になった。ただでさえ物事を深く捉えるたちのある家康だ。あいまいな表現をされれば深掘りせずにはいられない。
 数秒唸った末、ぼそっと答えを吐きだした。
 
「男らしさが、足りないということか・・・」
 
 確かに苦悩する様は一五、六の小娘の様だけれども。いかつい身体の割によく似合う所が不思議だ。
 あちゃーと慶次は大げさに額を覆った。大方、武田の暑苦しい鍛錬風景を思い描いているのだろう。確かに甲斐の虎こと武田信玄は漢の中の漢である。それに幸村も並々ならぬ尊敬の念を抱いている。無論、目の前の男もだ。
 そういう風にとっちゃうのね、と何とか軌道修正をかけようと思案していた所に丁度いい第二走者がやってきた。さっさと会話のバトンを渡してしまおうと目論む。
 
「おーい、政宗ー、ちょっと相談に乗ってくれよー」
「ああん」
 
 反応こそこれだが政宗も兄貴属性の強い男だ。かくかくしかじかという慶次の説明を聞いてずばっと答えてくれた。
 
「そりゃあ、あんたの第二衣装のせいじゃねえのか。たとえ野郎の胸でもsexyすぎたんだろうよ」
「いやそれはない!」
 
 光速の返答に政宗と慶次は度肝を抜かれる。「だ、だって・・・」ごにょと唇を尖らせ目を泳がせる様は可愛い半分、総大将だろアンタ、しっかりしてくれという所か。
 
「あんな恰好して言ったらそれこそ真田に破廉恥呼ばわりされるだろ・・・?だから」
「一回も着ていってない、と」
 
 こくり、と頷く。気遣い屋な家康らしい行動だったが、いかんせん興奮が尾を引かないのだろう、真っ赤になった耳を見て政宗の忍耐が速効で音を挙げた。
 じれったいこと極まりない。お前は乙女か。
 
「f××kf××kf××k!そんなに気になるなら本人に聞け!!」
 

 
「・・・。・・・」
 
 というわけで本人に聞きに来た。
 幸村の眉間には小十郎並みにしわがよっている。それだけで家康の心臓は跳ねた。
 
「何故、」
 
 ゆっくりと言葉を区切る。普段とは打って変わった落ち着き払った声に、慶次はもちろん、政宗も意外すぎて言葉を失った。この男も、こんな態度をするのだと。こんな拒絶の仕方をする男なのだと幸村の意外な一面に素直に驚いてしまう。
 ついでに常にこんなつんけんどんとした態度で接せられている家康に合掌した。
 
「何故、某が貴殿を破廉恥だと思うか、でござるか?」
「あ、ああ・・・」
 
 ワシの態度がもとで、お前の気分を損ねたくはない。己の信条云々ならこちらも退けぬが、立ち振る舞いに難があるなら是非とも直したい等々。家康は少々くどくも感じられるほどに言葉を重ねる。それくらい、内心幸村を畏怖していている証拠だった。
 黙って家康の言葉に耳を傾けていた幸村は重々しく口を開いた。
 
「決まっておろう」
 
 腹の底から嫌悪する声だ。びくっと家康の肩が震える。するとますます幸村の視線が痛いものになった。
 ああやっぱりこういう態度がいけないのだと心の中で家康は泣いた。
 
「臍でござる」
「へ?」
 
 間抜けすぎる声が出た。気づけば自分のものだけでなかった。政宗も慶次も自分と同じような顔をしている。
 幸村だけが弩真面目に続けた。
 
「臍を見せるなど破廉恥きわまりないでござる!!!」
 
 ぐわっと見開かれた眼は虎を思わせる。普段の家康だったら体中の震えを押さえるのに必死だろうが今は喉まで出かかっている「そこかぁ・・!?」という泣きそうな声を押さえるのに必死だった。ちなみに残りの二人は「お前も大差ない恰好だろうが!」と突っ込みたくてうずうずしていた。
 幸村の視線に気づく。特徴的な視線、この場合は死線と称する方がいいのだろうか、には、先ほどから波がある。どういうことなのかとよくよく観察してみれば、幸村は家康とそれ以外を交互に見ていた。つまりは家康を盗み見ている。
 どこをとは言わない。
 
「あ・・・」
 
 熱が回りだすのが分かる。生まれてこの方意識したことのない部位だったが、誰でもない幸村に指摘されて羞恥が爆発したのだろう。
 じっと虎の双眸に見つめられていると家康にはついているはずのない姫若子スイッチがオンしそうだった。
 不愉快極まりない声で幸村がもう一度断言した。
 
「破廉恥でござる!!」
 
 
 
 ちなみにこの一件の後、東軍では家康の腹を見て破廉恥!と叫ぶおふざけが流行ったとか流行らなかったとか。
 
 
 
 
 
 家康さんのおへそと三回唱えるだけで興奮できる変態ですいません。幸村の格好もスタイリッシュで好きですが、某は腰履きを推奨します。腰大好きです。

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